■サイエンス基金受賞者による「なるほどサイエンス」■

平成12年11月10日 掲載

環境ホルモンについて


帝京科学大学 平井 俊朗
(テレビ山梨サイエンス振興基金第5回受賞)

 ここのところ、テレビや新聞で「環境ホルモン」という言葉をよく目や耳にします。これは一般向けに内分泌学者たちが作った造語で、学術的には「内分泌攪乱物質」といいます。
 今世紀、化学の発達により人類は自然界に存在しないさまざまな物質を手に入れ生活を豊かにしてきました。ホルモンは決まった細胞だけが持つ受容体と呼ばれるタンパク質に鍵と鍵穴のように特異的に結合して働きます。
 ところが、人工化合物の中には偶然にもこの鍵穴に合ってしまうものがあるのです。その結果、これらまがい物のホルモンが体の中に入りこむことによって、本来ある決まった時にだけ働いてほしいはずのホルモンの働きがかき乱されてしまうのです。
 動物は子孫を残すために精子と卵を作ります。このために男性ホルモン、女性ホルモンが重要な働きをするわけですが、実はこれらのホルモンは子供の体が雄、雌のいずれになるのかを決めるときにも重要で、しかも大人の体よりはるかに微量で働いている(ホルモンに対する感受性が高い)ことが判ってきました。
 最近「多摩川のコイ」のような環境ホルモンの影響と思われる野生動物の性の異常が次々と報告されています。私たちも実験室内で環境ホルモンにより魚で雄から雌への性転換が起こることを確認しました。ところが、実験的に性転換が起こる濃度は多摩川などで検出されているよりもはるかに高い濃度で、このところ研究者の間では都市型河川で見られる野生生物の性異常の原因の候補として下水に含まれる女性ホルモン自身(大部分は人間のし尿によると考えられる)が注目されています。
 しかし、これらの異常がどのようにして起こるのかは、真の原因が何なのかを含めてほとんど明らかになっていません。どう異常が起きているかを知る上で重要となる正常な精子や卵の成り立ちがまだよく判っていないのです。
 いずれにしても、環境ホルモンの問題は研究者とマスコミが正しい情報を提供し、一般の人たちを交えて今後人類が地球上でどう生きていくのかというレベルで論議する必要がありそうです。