■サイエンス基金受賞者による「なるほどサイエンス」■

平成12年5月20日 掲載

進化から学ぶこと


山梨大学 宇井 定春
(テレビ山梨サイエンス振興基金第8回受賞)

 ミレニアム早々の米国企業の『ヒトの遺伝子の推定97%以上解読』との発表で一獲千金特許を目指す解読競争もいよいよ終盤に入った。
 ところで、遺伝子は四種の塩基が連なったいわば紐であるが、その塩基の配列順序が情報を持ち、二重螺旋構造をとっていることは今日誰もが知っている。長さはというとヒトの場合31億8000万塩基対で、大腸菌の470万塩基対と比べはるかに情報量が多い。
 一般に哺乳類の細胞のDNA含量は大腸菌のそれのほぼ800倍に達するが、大腸菌とヒトでは長さの点だけでなく、実は中身もちょっと違うのである。ヒトの遺伝子にはエクソンと呼ばれる蛋白の設計図となる塩基配列と、イントロンと呼ばれる不要な塩基配列とが交互に連結している。
 ところが、この不要な配列のおかげで遺伝子のさまざまな組み換えが可能になり、細胞の多様性を生み出すことができたのである。すなわち、大腸菌は増殖効率を選び、ヒトの祖先は増殖よりも神経系を発達させる術を選んだ。
 もちろん、生命系が成り立つためには互いにさまざまなタイプの生命との連携が必要であり、ここで生物の優劣がどうこうと言っているのではない。ただ、生物学的に進化した機能を持つヒト、すなわち人間の遺伝子が作り出した社会を見た場合、高度に発展していくためには同様のことが言えそうだということである。
 もちろん、効率を目指すことは大切である。だが、効率の方は黙っていても本能がそのように行動してくれる。社会が進展すればするほど競争からさらに効率を求めたくなる。しかし、同時に多様性も必要になっていることにはついつい気がつかない。人類の未来が輝いたものになるためにもまず身近なことの多様性から大切にしていきたいものである。